むかしむかし、永澤寺に通幻という えら〜い和尚さんが住んでおられた。 和尚さんは、お墓の中から生まれたという ふしぎなふしぎな人やったそうな。
 和尚さんは、いつも朝の暗いうちから仏様を 拝んでおられたんやて・・・・・。
 それはある日のこと・・ 和尚さんは、いつものように仏様を拝んでおられたら、 お堂の外には、今まで見た事もない姿の女の人が、 じ〜っとたたずんで中のようすをうかがっておった。
  和尚さんはそれを感じとって、
    「この者はただ者ではない、何か深いわけがあるにちがいない。 もう少しようすを見てみよう。」  
   と、そのまま仏様を拝み続けられた。

 こんな日が7日も続いた。
  「よし、今日は一つ喝を入れてやろう」  
と、ゆっくり外に出られた。 すると、女の人は真紅な長い長い舌を、
  「ペロペロ、ペロペロ」  
と、何回も出していた。 そのたびに、口から生ぐさい生ぐさいにおいがいっぱいしよった。
「 カァ〜ッ」  
女はびっくりして、和尚さんの足下に うずくまってしまった。
  「お前は、一体何者ぞ!」

「私は、多くの人をのみ込んだり、 みにくい姿の罪深い竜女です。もとの姿にかえりたいのです。どうか、どうか、お助け下さい。 お願い、お願いでございます。」

「そうかそうか、よくわかった。 だがのー、悟りを開くのは、それはそれはなみたいていではない。やめとくがよいぞ。」

「いいえ、いいえ、私は罪のつぐないをして、もとの姿になりたいのです。どうか、どうか、お頼み申します。」

「ほんまに悟りを開く決心やな。」

「ハイハイ、どんな苦しい事があっても命がけでやり通 します。」

「よしよし、そんなら教えよう。 では、千百十一の間一言もものをいってはならぬ。そして、花と水と線香を仏様に供えよ。もし、一日でも休むと、心の苦しみは、今の百倍、いや、千倍になろうぞ。」

「ハイハイ、よくわかりました。 お教えの通り守ります。ありがとうございました。」
 
   と、いって、裏山へ帰っていった。 大雨の日も、大風の日も、大雪の日も毎日毎日 竜女は一日も休まず花と水と線香をもって 仏様にお供えするのだった。
 
 
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